本のある日記

本のある日記

日記・その時にあてはまる本・ことば・音楽。

罰を与えた

真綿ではなく、誰かの手でもなく、見えない紐でゆるやかに縛られるような感覚がする。今の職場にいると。
なんにも誰のせいでもなく、しかし苦しくなる。悪いのが誰なのか私にはわかっている。

話は変わって金曜日に「背徳会」をしました。それはただただ、職場でお菓子を食べるだけなのですが、同席してくれた子がそう名付けてくれました。紅茶でも出せたら良かったですねと言うと、「そこまでいくと背徳ではなく、罪です!」と言われた。背徳会はまた催される予定。初回の活動はエクレアを食べながら高校時代の話などをした。

そう、何も私に害をもたらさない。楽しいことはたくさん起きている。けれど身動きが取れなくなる感覚も日々ある。誰が主犯か、それは自分。

〈「ひとりになりたいなぁ。」/思わず独り言を言った。ひとりになりたい、そんなこと思っちゃいけない。でも、心底ひとりになりたかった。〉
(西加奈子『おまじない』収録「孫係」より)


西加奈子『おまじない』

おまじない (単行本)

おまじない (単行本)

言葉・家族・お酒・妊娠・好きな人・苺・など、「何か」「誰か」「言葉」「身体」など、さまざまなものに「囚われてしまった」人たちの短編集。登場人物たちは何かしらの存在に「おまじない」のように心(の一部)と、生活を支配されています。統一されていないようで、「おまじない」という点で共通している物語たち。
作中に「おまじないはお前を呪ってへんねん」という台詞があるのですが、この本に出てくる人たち、そして私たちも、知らず知らずのうちに、自分の琴線にふれる何かに縛られていたことに気がつくのでした。呪ってないと言いつつも、それらはまるで呪いのよう。

私は、自らを苦しめる言葉を燃やしたいと願う女の子の話「燃やす」と、妊娠が発覚してぐるんぐるんしてる女の人の話「マタニティ」が好きです。
だいたいどの話もシリアスなのに、「マタニティ」の中でひとり浮き浮きしている田端くんの存在が光ってる。こういう西加奈子のほうが好き。

私の人生にも色々な「おまじない」がある。やってはいけない、存在してはいけない「おまじない」も。
悪いことをしたときは罰を与えます。だから土曜日に与えました。

明日はあかるいことを書こう!

呪い

呪い

魔女に呼ばれて本を読む

月曜なのに気がのらない……と顔をあげたところに本が置いていて、ふと目が合った本があり、休憩中に読んでしまった。

梨木香歩西の魔女が死んだ

西の魔女が死んだ (新潮文庫)

西の魔女が死んだ (新潮文庫)

あらすじ
「まい」は中学生になってすぐ、学校に行かなくなった。そんなあるとき、まいは住む街を離れ、母方の祖母の家へと預けられることになる。初夏の頃を豊かな緑と祖母との不思議な日常に囲まれて過ごしていくうちに、まいは「魔女」の修行をはじめることになり……。

ぱらぱらとめくるうちにどんどん読んでしまった。
この本は長いあいだ、名前だけ知っていてずっと読む機会がなかったのだけど、なんか今回このタイミングでこの本を手に取れて良かった。

手元に本がないので引用できないのですが、まいは学校に行っていない子で、いつか日常に戻る、または今の日常から逃げる(転校する)日がくることを、ちゃんとわかっている。
日常に戻ることも逃げることも、どちらにもバツの悪さを感じていて、それをおばあちゃんに相談すると、おばあちゃんは逃げることを肯定してくれるんです。
シロクマがハワイから北極に行ってそれを責める人がいる?って。

それで、おばあちゃんはずっとここにいてもいいよと言ってくれるけど、まいはそれを選ばない。
この、緩やかな日々を選ばないっていうのがなんだか一番ぐっときました。でも、まいと同じでその理由はうまく言えないけど。

連続する日々の中のほんの隙間というか、ちょっと手が空いた瞬間というか、もっと直接的に言えば最近のコロナの色々で、今まで当たり前にしてきたことから少し離れて立ち止まっていた今の状態が、まさにこの物語と合っていたので、いま読めて良かった。
だから、同じようにぱっと日常に穴が開いた人や、休校を体験した子どもたちが読むとすごくいいかもしれない。

番外編の「渡りの一日」は掛け合いのテンポがよいと思いました。ラストの一段落がよかった。

女の子が日常から少し離れた世界で過ごす、という物語は、私は青木和雄さんの『ハッピーバースデー』を強く思い出すのだけど。(『西の魔女が死んだ』の中ではハイジが挙げられてた)


今日は魔女の話を読んだので、今日起きた魔女っぽい出来事(?)をかきます。

・本とも目が合ったけど、遠くにいる人とも目が合って、あとから聞くと「アイコンタクト送りました」と言われた。(なんとなくわかった)

・髪の毛ピンクに染めたいのですが、先を越された。(先輩が染めてた、可愛かった)

・本をふと、手に取る人を目撃した。こういう「ふと本に触れる」瞬間ってすごく大切で、この瞬間のために本の近くで過ごしていたい!(と思った)

本屋さんの本

夏の匂いが濃いです!

昼間、去年に東京へ遊びにいったことを思い出していて(新宿のガード下は怖かった)、そのとき色んな本屋さんに行ったのですが、今日ふと開いた本にその本屋さんが登場してきておおーとなりました。

矢部智子『本屋さんに行きたい』

本屋さんに行きたい

本屋さんに行きたい

本屋さんの名前は「Shibuya Publishing & Booksellers」です。通称SPBSというらしい。

https://www.shibuyabooks.co.jp/
(公式サイト)

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これ去年ですね。店内は撮影できなかったはず。
白い什器に、おしゃれなもの(本以外もたくさん)が色々置いてあった…。なんだろう、本や商品たちはすごく存在感があるけど、店員さんはごくさりげなくその空間にいてくれて、そのシンプルさも良かった。外は晴れていたけど太陽が隠れていて、その白さとお店の雰囲気もよく合っていた記憶。
楽しいお店だったナー、また行きたいな。

この本自体は10年くらい前に出たものなので今はどのくらい変わらずにこのお店たちがあるのかなあと思ったりした。
色んなタイプの本屋さんが載ってます。
東京とか京都は本屋さんがたくさんあるのが好き。
本屋さんは色々あるほうが楽しいよね。
この本のなかではギャラリーとカフェと本屋が1:1:1の本屋さんとか、自分達の好きな本を置く貸本屋さんとか、良いと思いました。本屋さんが本屋さんになるまでのエピソードも載っているのですが、エモいよ。

〈チェーン店の割合が増えているなかで、地方の人が『どこでも同じじゃない情報』を得られる場の持つ役割って、すごく大きくなっていると思う。〉
(恵文社一乗寺店店長:堀部篤史さん(当時)のインタビューより引用/上記『本屋さんに行きたい』掲載)

そうなんだよなー
こういうことを昨日言えたらよかったんだー

恵文社も懐かしい。ここで買った本を今でも大切に読んでいます。


Saturday Night to Sunday Morning

Saturday Night to Sunday Morning

  • Shiggy Jr.
  • J-Pop
  • ¥255
いまきいてる歌

すぐに見つけないでください

ごほうびがない。
一週間の終わりに嬉しくなれることが待ち構えていない。
抹茶クリームフラペチーノ、海、新しい本、部屋の冷房。これらも嬉しい、けどそうではない。

話を変えます。
職場ですれ違った人に会釈をすると、立ち止まっておもむろに、
「◯◯◯◯(私の職名)?」と確認される。
うそ、いま?
二ヶ月目にしてやっと職名を認知される私。でも幽霊から一歩、人間に近づいたのか。

また別の場面で、何人かで本の話題になったときにある一人が
「面倒だしスマホでいいですよ」
と言う。そーですねーと流れていく人々。
誰も悪気はないとわかるのだが、だめだこりゃ。

本の話は、今の世界で本にこだわる必要はないから仕方ない。でも最初から放棄するみたいな空気が嫌。
私の仕事も本も何が同じかというと、世間からすれば割と「そんなの知ったこっちゃねーよ」ということをしている。知ったこっちゃねーならもうなくていーだろ、とたまに思うし、私がその概念をぶっ壊してやる!とも思う。葛藤がある。
とりあえず幽霊のままではいけない。人間になりたい。今週とても疲れたけど、その疲れをとる甘いものを設定できていない。

アスパラ

アスパラ

ここでアスパラを聴いてください。
もう全然ドライに書けない。嫌だ。

素敵な話もします。今週後半のダイジェスト

①水曜日
女の子から手紙を貰う。嬉しかった。

②木曜日
前からずっと引っ掛かっていることがあって、その悩みを打ち明ける。「いつも私や◯◯さん(仲良しの人)と話すみたいに、その人にも素直に聞いてみたらいいと思いますよ」など言ってくれる。
この人は、私をいつも助けてくれるみたいに、相手を嬉しくさせるように動ける人なんだと実感する。
逆に私はいつも人のことを傷つけていたのかもしれない。

③金曜日
取引先の人と突然、ダンボール財布の島津冬樹さんの話題で盛り上がる。今まで話してきた中で一番盛り上がる。

(たまたまこの本が近くにあった。相手は島津さんのドキュメンタリー映画を観たらしい。私は先日、雑誌で島津さんの特集を読んだ。)
盛り上がりは謎だったけど、この数分前に私がポチ袋に入れて渡したお菓子をお金(何かの代金)だと勘違いされてたことの照れ隠しだったのかもしれない……。
この人が映画の話をしてくれるのが、密かな楽しみになっている。いつもマイナーなものばかり教えてくれる。

④金曜日その2
職場ですぐ私を見つけてくれる人がいる。今日もすぐ見つかってしまう。でもそんなにすぐに見つかりたくないような気もして近くにいると忍んでしまう。
わかりますかこの感じ。私にはわかりません。

予告と誰か

夢は相変わらずみている。今日は新築の体育館から出られない夢。きれいな建物だった。

朝、背後から声をかけられる。咄嗟に「おはよう」と敬語じゃなく返してしまった。普通に言えばよかった。

窓の外では、紫陽花がこの前より深い青になっていた。プールの中みたいな色。
六月にしては風が涼しくてなんだか眠たくなる。別の人も同じことを思っていたらしい。新しくできた水族館について少し話す。その人の日焼けした手を見て、夏が来ていることに気づく。
「たまに、ぎゃーって、叫びたくなるときないですか?」と聞かれた。この人でもそんなこと思うんだなって思う。私はいつも叫んでいる。

夕方、予告を残される。予告があると未来がある程度分かって気持ちが楽。
誰もいなくなってから「小鳥公園」をくちずさむ。

〈ほんとうのことを言いたいとずっと思っている。〉
(橋本亮二『うもれる日々』収録「ページを開くこと」より引用)
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どこまで本というかんじの写真ですみません。(枕の上にのせてる)
版元さん(出版社のこと、ここでは出版社の営業担当の人の意)をしているお兄さんが書いたエッセイZINE。本好きの日常が飾らずに綴られている。
本も言葉も好きだけど、それを〈ほんとうの〉言葉で伝えることの難しさについて、引用した部分では書かれている。わかる、見たままの景色で写真に残せないもどかしさに似てる。

橋本さんは『本を贈る』という本にも寄稿していて、読める環境にあったのでそちらも読む。『本を贈る』で書いてある文章のほうが好き。版元さんが書店員さんに会いたいと思うように、その逆もあると告げたい。
私はいま、どちらでもないけど……。

余談をふたつ話させてください。

1.すごく久しぶりに歯医者さんへ行く。受付のお姉さんも先生も、相変わらず下の名前で呼んでくれる。先生から「アフリカでも行ったんかと思ってたわ」って言われた。

2.ひとりぼっちなのに、誰かの影が目の前を通りすぎて顔をあげても誰もいないということが職場でよくある。たぶん私の他に二人くらいいる。誰ですか?