「だって好きな人が良いって言うと、今まで興味のなかった音楽とか本とかが急に特別な物に思えてくるじゃない。自分を良いと思ってないから、自分越しに見てる世界も愛せないんだと思う」
(島本理生『クローバー』より)
- 作者:島本 理生
- 発売日: 2011/01/25
- メディア: 文庫
あらすじ
ふたり暮らしをしている華子(はなこ)と冬冶(とうじ)は、真逆な性格をした双子のきょうだい。
地味な冬冶は、常に恋人の絶えない姉の華子にうんざりする毎日を送っていたが、ある日、華子がかつてない恋に落ちたことを打ち明けてくる。
華子につきまとう公務員・熊野や、どこか残念な大学のクラスメイト・雪村、そして冷酷な従兄弟の高校生・史弥(ふみや)を巻き込んで、あわただしく日々がめぐっていく……。
島本理生に江國香織をブレンドして有川浩を垂らして島本理生で割ったみたいな話だった。大学生のゆるやかな日々を描いていて、表面上はとてもラブリーな四葉のクローバーって感じの話。なんだけど、こんな平和な話も書くのかと思っていたら最後の二章くらいで急にどろっとした草の汁が出てきて、気づいたらシロツメクサの花の部分が足の裏で潰れていた。そんな感じの話。
最後に色々と積み木を壊してしまうのは、すごく島本理生って感じだった。あとがきも荒れてて、逆にリアルな心の反映という感じで良かった。
「私、あの人の中でだけは、代用の利かない存在になりたいの」(同上より)
以下、作品の核心にふれます。私が読んだのは単行本版なので、改稿された文庫版の内容はわからないまま書きます。
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短編集。『クローバー』とは、表題作の中では4人家族である冬冶の家庭の様子をあらわす言葉なのだが、全編を通して考えると主要人物4人(史弥以外)のことでもあるみたい。
◇華子……姉。二十歳。華やかだが意外と自信が無くて、恋人の存在に安心安全を求めていくタイプ。実際はそこまで美人ではないらしい。が、性格と努力でカバーしているのでモテモテ。
◇冬冶……弟。理系大学生。生活の基本軸は姉。シスコンぶらないけど客観的にはシスコン。生活の軸を他人に委ねる点は姉と似ている。恋愛経験は少ない。たぶん主人公。
◇熊野……ストーカー。だんだんいい人に思えてくるし、この人がいないともっと暗黒展開になりそうだった。本名は細野。
◇雪村……冬冶のクラスメイト。理系の中で数少ない女子だが、服装や身だしなみが少し残念なため、あまり女子だと意識されないタイプ。頭はいい。
たぶん作中で一番、島本理生作品の主人公っぽいタイプ。闇も一番深そう。
◇史弥……華子と冬冶の従兄弟。美少年。他人への思いやりは一切ないが悪気も一切ない。
たぶん作中で一番、島本理生作品に出てくる男の子って感じの人。私が作中で一番好きな人物でもある。
華子のときは可愛くてやわらかい雰囲気が物語のなかにあるんだけど、冬冶に重きが置かれてからちょっと雰囲気が変わってくる。
それでも、雪村と史弥っていう、島本作品らしい闇のあるふたりが脇に置かれているので影はそこまで落ちていない。
私が読んでいて気になったのは、「淡い決意」という章のこの場面。
〈着物の袖から一瞬だけ腕の内側がのぞいた。/僕の視線に気付いた彼女が、すっと袖を押さえて〉
この描写、たぶん、恋人として次のステップに進む伏線として書かれているのだけど、もしかして自傷してたのかなあと一瞬思ってしまった。
その後の章で藤森という友人が雪村について、「そういえば、あの人って」と言いかける場面も、それが何だったのか最後までわからなかった。だからそれがあれなのかなあって(腕の内側)思ってしまった。きっと違うんだけど。
この作家だからこう、っていうのはあまり良くない考え方なんだけど、島本さんはいつも最後に何かを壊して物語を閉じるイメージがあって、これは途中まで平和な雰囲気だったので油断していたけどやっぱり平和なままでもなかった。でもそれをすることで、深い余韻は残るというか。
明るいんだけど、傷口や痛みに真正面から向き合って書かれていて、そういう強さも(脆さも)感じる話だった。
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おまけの日記
最近、年齢の話をよくする。するというか偶然にそういう話になる。偶然だと思う。
気分はぎりぎりなんだけど、周りから見るとそうでもないらしい。そういう話もよくする。
今しかないぎりぎり感がわりとマックスなのだが、だからこそ今が一番おもしろいときかも。
今日はすごく綺麗な人から、女性として褒めてもらえたのでもう良いです。合格です今日というか今月は。