本のある日記

本のある日記

日記・その時にあてはまる本・ことば・音楽。

だめジャム/わたしを全部ひらけば

悪夢をたくさん見た一週間だった。

火曜日
ひさびさの、真夜中の喫茶店。ペーパートーク(古本YOMSさん主催の自作印刷物交換会)の原稿をつくるため。若い男の子が煙草を吸っていて、煙草ってこういう香りだったなあと懐かしくなる。
ものすごーく殺伐としたものを少し長い文章で書いてみる。いつも原稿ができると嬉しくなるのに今回はまったくそうならない。記憶を掘り起こす作業が痛かった。
でも、今をすぎると忘れてしまうし、今だから少し距離をとって文章に出来たんだと思う。
これが書けたから今後この記憶を書くことはしばらくないと思う。言葉にすると必ずどこかが嘘になってしまう。現実をそのまま残したいなら心の外に出してはいけない。でも、やっと出して、嘘にすることができた。その点では良かった。前に進めた気がしたので。
そのかばんいーですね、と喫茶店のお姉さんが声をかけてくれる。

水曜日
夢を見る。優しい人と、好きな人しか出てこなかった。優しい人は夢の中でも優しかった。
夜は練習。ぜんぜんスランプ。

木曜日
電話をかける。夜は練習。

金曜日
ペーパートークの前日。なのに、やる気が出ない。と思いながら、詩を作る。元旦に夜の海へ出かけたときに、ふと題を思いついてそれをもとに書いてみた。
苦しかったことと、不安なこと、幸せなこと、普段言わないこと、バランスよく言葉に出せて自分としては満足した。

土曜日
一日お休みをとる。ひさしぶりの、何もない日。
ペーパートーク無事に提出する。
たまたま他の出品者さんとはちあわせて、「どれを作ったんですか?」と聞かれるも答えられない。
「おおやけにはしづらいことでもここでなら出せるのかも」と店長さんが言っていた。そうなの。
そのあと別の本屋で『装苑』と『nice things』買う。装苑はものすごくよい。
夕方、お寿司を買ってみる。お鍋を持参すると赤だしを入れてくれるというのでそうしてもらうと、なんと鍋のふたが壊れてしまう。そしてお店の人が直してくれる。
ゆっくり夜を過ごした。そしてたくさん悪夢を見た。嬉しいことがあると、反動で不安も湧き出て悪夢になる。怖い夢を見たことを、あとで人に話してみる。聞いてくれる人がいると安心する。

日曜日
私の秘密を人に打ち明ける。ほとんど誰にも言ったことがないようなことなので、少し怖かった。でも話せてよかった。まだ打ち明けていないこともあるが、それは必要がなければ言わないままでいようと思う。
昼から練習。疲れた。ドーナツ買って帰る。
夜はちょっとの時間、話をする。家族とは、義務感で話をするわけではなくて、何か生活の中で発見があったときに話をしたくなるよね、というような話をする。

ジャムを煮詰めていくように時間をすごしてみたら、どうなるんだろう。べとべとに固まってはりついて動けなくなるのだろうか。
人にわたしの中身を全部ひらいてみたら、わたしと相手はどうなってしまうんだろう。何かは壊れていくんだろうか?
というようなことを、今はぼんやり考えている。
怖いことは、夢の中だけで終わってほしい。

〈「すぐ祈っちゃうの」/「うん」/「でも、そんなことしなくていいような関係になれたらって思う」〉
(『装苑3月号』掲載 水沢なお「ミラー」より引用)

装苑 2021年3月号 伝えること、つながること。』

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年明けてからの装苑、これも前の号もめちゃくちゃ良い。
最近の装苑は一冊の中にドラマがこめられているのがよい。
テーマが素材とか、「もの」ではなくて、概念や心の動きにシフトされてきている。だからこそ、ストーリー性が強くなってきている気もする。
それは、やはり今が、心の持ちようで乗り越えるしかないような不安定な世界になっているからなのかも。