14日
『YOASOBI小説集 夜に駆ける』のなかの「たぶん」を読んでいた。恋人が離れていく話。
すると、年下の男の子がやってくる。よく仕事部屋に遊びに来てくれていて、でも最近来てなくて、久しぶりに会う人。少し話をして、
「また来てね」
そう言った。
いつもと同じに、すると。
「またねは無いんだよ」
と言われて、素の声で「えっ?」と聞き返してしまった。
「もうここには来ないよ」
来るとしたらこの場所を離れたその後に来るよ、と言って彼は去った。ぼうぜんとする私がそこには残されて。
春になって、環境が変わって、だから選択したことなのだと思う。ここに来ないということも。
でも淋しかった。
夕方、仲良しの人が来る。
そしてすぐ去っていく。
「また来てください」とだけ声をかける。
それを伝えられただけよかった。
私の仕事部屋はここだから、私はここから動かない。最後まで残されるのはいつも私だけ。
それが私の淋しさだし、特権なんだろう。
〈みんないってしまうんだな。私は小さな自分の一人の部屋を眺めてそう思った。この手の中に確かにあったと思ったものが、みんな掌から零れ落ちてしまった。〉
(山本文緒『みんないってしまう』より引用)
この前、手を伸ばしたところにあった本。
本はどこにもいかない。こちらによびかけはするけど動かない。そこでじっと待っている。
だから私もこの部屋では本なのかもしれない。
〈ひとつ失くすと、ひとつ貰える。そうやってまた毎日は回っていく。〉
(同上)
きょうは光と緑がきれいな春の日だった。