風が寒いから長袖のブラウスを久しぶりにクローゼットから出して、スタバのコーヒーを飲んで、大学で講義を受けて、お昼は秋晴れのキャンパスのベンチでぼんやり本を読んで、午後は教室で新美南吉の『おぢいさんのランプ』の映像を眺めながら、物語は〈欠陥〉から始まりそれを補っていくものなのだと語る先生の声を聞いて、プリントに好きな人たちの落書きをした。今日だけ大学生の気分だった。
キャンパスの中の、コミュニティに縛られず自分が何をしていても誰も気に留めていない自由さとか、かならずいる野良猫とか、学生が作った畑から掘り出されて無造作に転がっている芋とか野花とか、誰もいないのに誰でも歩ける廊下とか、すべてが箱庭の中のような安心感とか、懐かしかった。
夜は早く講義が終わったし、と海に行ったけれど、寒すぎてすぐ引き返した。
サンポートにある薔薇園をようやく見つけることができた。
車の中から電話をかけて、
最近の夜ご飯、何食べたの?と聞いてみると、
「みかんだけ食べた」と答えが返ってきて、その行為に至るまでの、ささやかな絶望のような何かを感じてつい真顔になってしまった。
好きな人たちみんな幸せになってほしい。
〈赤ちゃんみたいで情けないから言えなかっただけで、心配されて手をつなぐことも、優しく抱きしめられることも、全然、足りてない、本当はもっと欲しいのだと思いながら押し止めていた気持ちが溢れ出して、我慢して黙り込むので精一杯でした。〉
(島本理生『あなたの呼吸が止まるまで』より)
あらすじ
本と、物語を書くのが好きな十二歳の朔は、舞踏家の父と二人暮らし。小学校のクラスではなんだか気になる同級生・田島、ストレートな性格の友人・鹿山と関わりあっていく。そして学校の外では、父の知り合いである男性・佐倉に出遭い惹かれていくが……
たぶん、島本作品でこの文庫だけ絶版になっているの。
タイトルの意味を考えながら読んだ。
最後まで読むと明らかになるけど……
今週自分がとても忙しくて、余裕がないし淋しいし、そのタイミングで読んだせいでとてもつらくなった。
抗えない暴力、そして消えない傷、そんなものが島本さんの物語にはあるんだけど、この物語では、「その瞬間」が描かれるのでより濃いし生々しい気がした。
よく見ると、その傷をつけた人間は、裏表紙のあらすじに出てこないのよね。
〈右手の親指には絆創膏が巻いてあって、そのフチがかすかに汚れていることに気付いた瞬間、吐き気がこみ上げてきました。〉
こことてもこわい。ちなみにこの↑文字の色は「若紫」らしい。
そもそもこの本を読む直前、なにとなく『夏の裁断』を読み返していて
〈じきにたくさんの怖かった男の人たちの年齢を追い越していく。〉
(島本理生『夏の裁断』より)
ここの部分がとても頭の中に残って、
でもこれはなんだか、『あなたの呼吸が止まるまで』の未来にも繋がってくるような言葉だなあと、『あなたの〜』を読み終えたあと思った。というか、これが島本さんの言いたいことなのだと思う。
11日・12日
本屋さんに行く。本をたくさん眺めて自分でも何冊か買う。
自分の中で、こうなるとやばいというレベルがあって
本を読まなくなるがレベル1、
本屋に行かなくなるがレベル2、
本を買わなくなるがレベル3。
(本屋に行かなくても本は買えるので)
欲しい本がなくなる、というか、本に対しての執着や欲望がなくなると死期が近いのかなと思ってしまう。最近レベル3の直前だったけど、回避できた。
12日はつらいことがあって、つらさを人に打ち明けた。解決してくれなくていいし、そこにいてくれるだけでいい。
島本理生の『夏の裁断』の最後だけを読み返した。
13日
思い出せないけど、マッサージに行った。
「こんなおじさんに変なことされたとか思われるかもしれませんが」と言われて(おじさんは気を遣ってくれてるのだと思う)
別に何もされてないし、何もないのに、
とても気持ち悪くなった。相手は悪くなくて自分の中の問題だと思う。
他人が気持ち悪いと思う自分が気持ち悪かった。
14日
夜、練習。
15日
とても忙しかった。帰ってから少し泣いた。
自分は淋しいのだと思う。
ひとりでいると、過去の記憶がおばけみたいに迫ってきて呼吸が苦しくなる。
16日
一日練習。疲れ果てて眠る。連絡が来なくて悲しい。
17日
冒頭。