本のある日記

本のある日記

日記・その時にあてはまる本・ことば・音楽。

終わったな/ざわざわ

「胸がざわざわするんです、春だから?」
「何言ってるの?」

こんな会話をした。今日。

19日 つづき
家族に大事な話をする。肯定的でよかった。

20日
習い事。朝から憂鬱だったのだが途中でふっきれて(諦めがついて)切り替えられた。その結果、うまいこと成果が出せたと思う。
疲れていたのか大号泣する。
無理したくないけど無理なんだよなー

21日
家族と昼ご飯を食べて、駅まで送り届ける。
そのあとはスタバに寄って、フィオレットで人にあげる焼き菓子と、自分へのごほうびのケーキを買う。カシスのケーキ美味しかった。
夜は旅の計画を少したてる。

22日
朝から大失態。私は大失態だが、先輩は(ふつうの)失態。「粗相軍団」と呼ばれる。
「終わりや」
「終わりですね」
「もう飛ばされるな」
「はい」
こんな会話をした。

焼き菓子を渡した。ひとりだけ、クッキーにした。助けてくれたお礼。
「たとえ(この前手伝ったことが)うまく行ってなくてもこのクッキーは返しませんよ」と言っていた。はい。

夕方、職場の人と写真を撮る。
「これが何かを象徴する一枚になるかもしれないな……」と先輩がぼやく。

23日
いろいろある。いろいろ決まる。仕事部屋の大掃除を始めた。
夜、『はじめての』をようやく読んだ。
職場の人にすすめられていた。

24日
なんとなく、新年度が始まっていくのを感じる。胸がざわざわする。変化はいつも怖い。
ずっと、慣れているこのままでいたいのに、なぜ環境は毎回変化するのだろう。
疲れていて連絡が返せない。夜遅くに返す。


〈彼が僕の手のひらに口を押し付けて水を吸い込む様子を見て、僕はまるで幼い動物を飼育しているような哀れみを抱きました。〉

(『はじめての』収録 島本理生「私だけの所有者」より)

YOASOBIのうた『ミスター』のもとになった小説。『ミスター』を物語より先に聴いていて、自分が過去にうまく関係を築けなかった人のこととか、好きだった先生のことを思い出していた。

〈私のこと叱ってよミスター〉

ミスター

ミスター

  • YOASOBI
  • J-Pop
  • ¥255

この歌だけ聴くと、きちんと恋愛だし、島本理生の物語も「はじめて人を好きになったときに読む物語」と章題がついている。歌詞も、物語の世界をこの上なく緻密に表している。

それなのに、島本理生の作品を読むとすこし世界の色が変わって見えて、恋愛としての「好き」にはとどまらない、もう少し複雑な感情があるように思えてくる。
あなたが好き、だけではなく、あなたに所有されたい、あなただから所有されたい。
所有されて、所有される関係性を以てあなたを所有していたいー独占欲みたいな。そして、性愛にも近いなにか。

最後まで読んだとき、わたしたちは物語の足元が泥沼であることに気づく。
本当は〈僕〉はアンドロイドなんかじゃなくて、ただ、その言葉が向けられる相手を苦しめるために、わざと機械仕掛けの心を演じているようにも思えてくる。
何も知らないふりをするように。

島本理生って変態だと思う。太宰治の雰囲気にもちょっと似てた。

歌を聴いてから読んでねと職場の人に言われたけど、読んでから歌を聞いたほうが、あの透明な世界に影が落ちる感覚を味わわないで済んだのに、とも思った。

春のざわざわする心に、ふさわしい物語だった。