本のある日記

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日記・その時にあてはまる本・ことば・音楽。

あぶない杏

田丸雅智さんのショートショート作成技法というものを学んだ。簡単に説明すると、関係のない2つの言葉を組み合わせて(実際はもう少しプロセスがあるのだが割愛する)そこから物語の肉付けをしていくというもの。

私は「はさみ」と「杏」の言葉を選んだ。そこから、はさみは「危ない」ので、それを組み合わせて「あぶない杏」という掌編を作ってみた。作成時間は直しも含めて30分程度、恥ずかしいけど載せてみる。

 

 

__あぶない杏__

 

 

春になると杏のことを思い出す。杏が好きだ。まず杏という名前が美しい。
実家の庭には杏の木が植えられていた。ニ階にある自分の部屋から、庭に咲いた杏の花を眺めるのが好きだった。薄紅の花の、花びらが大きくぽてっとしているかたちも好ましかった。
あの花が欲しいと窓から手を伸ばせば墜落して怪我をすると知っていたので、花を手にすることはなかったが、いつか怪我をしてでもその枝を手折りたいと願うことが、春になる度の楽しみだった。
季節がすぎると母が杏の実を取ってくれて家族で食べた。杏をジャムにしたものを冷蔵庫から親が不在の時にこっそり取り出して、掬ってちびちびと舐めていた。杏は私にとって罪と秘密を抱えさせられる果実でもあった。

私はあの頃から杏が好きだった。

いま、目の前にある杏に触れてみる。その表面は思っていたより温かい。気温が高いせいだろうか? 私は少し焦った。
このまま置いてしまうと傷んでしまうかもしれない。そう思い、部屋の片隅にある冷蔵庫を見つめた。
こうしている間にも、杏は私の手の中で、私の体温で、どんどんと生ぬるくなっていく。

いや、あるいはそれでもいいのかもしれない。温まり熟れた杏。過去に母の作ったあのジャムの甘さ。誰にも内緒で私の体内へと消えていったどろどろの果実。
私は昔から杏が好きだった。

「杏」

私は彼女の手を強く握る。
私の一番好きな花の名前を持つ、私の少女。
白い頸部には私の指の跡が生々しく残っている。薄紅の。
これはあの子ども部屋から見た杏の花だ。

そうだ、後でこの子のまわりに杏の花を撒こう。杏の棺桶を作るのだ。たっぷりと熟れたあとに。
熟すまで、と、私は時計を一瞥し部屋を出た。たったいま人ではなくなったばかりの杏を置いて。

 

 

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学生のころから、好きな雰囲気って変わらないんだなって思った。首締めるのも好きなんだろうな。最後が安直。

でも、ひとつ作品ができたことが嬉しかった。最近言葉遊びから遠ざかっていたので。

 

 

載せるものなくて、最近のコスモス。