本のある日記

本のある日記

日記・その時にあてはまる本・ことば・音楽。

思い出すとめまいがするよ

今日はすごく湿度が高い。それなのに19時でもまだ青空が出ていて、19時なのに虹も出ている。
紫陽花は枯れ始めて、六月は終わります。

職場で『檸檬』の話になる。
どうやら檸檬を読むと「えたいの知れない不吉な塊」がわかる人とわからない人に分かれるらしい。
(私しらべ)

私はすごく『檸檬』が好きなんです、というと、「私も好きで、高校生の時に教科書で読んですごく感動して思わず感想文を書いたの。先生はわかってくれなかったけど。」と返してくれた。
私たちはそれぞれ、爆弾を落とされたんだろうなと思った。そのシンパシーが嬉しかった。
檸檬の話ができる職場って幸せだよな。
檸檬』はもう、永遠に教材として使われて爆弾を落とし続けてほしい。
仕事をしていた部屋があまりに暑くて、「その檸檬の冷たさはたとえようもなくよかった」のところを思い出す。
檸檬の爆撃を忘れられないように、本当は永遠にあの夜の街を歩いていたかったし、ずっとあの海に居たかった。
今はただ、くたくたのTシャツを着て寝転んでいる。


「先日2年ぶりくらいに箱を開けてドッと涙が出ました。」

(『GINZA 2020年7月号』特集「捨てられない物語」江口のりこインタビューより)

「捨てられない物語」というフレーズにひかれて買った本。
クローゼットの中の、捨てられないものたちを紹介するコーナー。女優の江口のりこさんは、もう会うことのできない先輩からもらった下駄をいつまでも大切にとっている。箱を開けて下駄を見ると涙がでてきたのだという。
GINZAはあまり買ったことがないが、今回の「捨てられない物語」というテーマはもちろん、他に載っている「妄想クローゼット」とか、「宝箱特集」とか、青いものの写真の連載とか、この号すごくいい感じ。

「私が覚えているから忘れてもいいよ」って会話をした。いつか思い出したくなくなったら、日記を捨ててしまえばいい。
とりあえず今は寝て起きて、たまご焼き作って仕事に行くの。

夜を駆ける

夜を駆ける

夜の散歩に行きたい。

(ら)名前のない関係

たまに「私たちはどういう関係なのだろう」と思う人(ら)がいる。
相手のことは確かに好きだが恋人にはならず、普通の友人ということでもない気がする。
俗な意味でも変な意味ではなくて、特定の誰かだけのことでもない。
時おりそういうことが相手の性別に関係なく起こり、いつも答えが出せないまま、ただ好きという気持ちだけがそこにある。

〈関係を表す適切な、世間が納得する名前はなにもない。〉
(凪良ゆう『流浪の月』より)

流浪の月

流浪の月

※ほんの少し台詞を引用するのでそれが嫌な人は読まないでください。

あらすじ
ファミリーレストランで向かい合う、ふたりの大人と一人の少女。家族でも友人でもない奇妙な三人の物語は、ある一人の少女が公園で見知らぬ男性と出会うところから始まる…

序盤から不穏な空気が漂う物語。
読む前は桜庭一樹『私の男』みたいな話なのかと思っていた。

私の男 (文春文庫)

私の男 (文春文庫)

でも似ているようで違うのは、『私の男』では「父」と「娘」という名前で、ふたりの関係性がはっきりと示されて(呪われて)いたけれど『流浪の月』に出てくる主人公たちの関係にはいつまでも名前がつかない。(なぜ名前がつかないのかは読んでください)

島本理生の『あられもない祈り』も思い出したけれど、あれはあれで、名前の代わりになるようなはっきりとした欲望や暴力があった。

あられもない祈り (河出文庫)

あられもない祈り (河出文庫)

でも『流浪の月』ではそうもならない。

「そういうのとは違うの。もっと切実に好きなの」/「セツジツって?」/「わたしがわたしでいるために、なくてはならないもの、みたいな」
(『流浪の月』より)

突然ですが、私(この日記を書いてる私)の嫌な思い出のひとつに「鍵事件」というのがあります。
去年の夏、わりと真夜中に帰宅したら家の鍵が壊れてしまい、家に入れなくなったという事件。田舎で夜中なので鍵屋さんも呼べない。
私はそのとき誰に言っていいのかわからなかった。誰かに助けてほしくて、誰がって一瞬思ったけど、こんなの誰も助けられないし、私も助けてとはよく頼めなかった。

そういうときに助けてくれる、よりかかれる、そんな絆がこの『流浪の月』の人たちの関係性ではないのかなあ。うまく言えないけど。ほんとにつらいとき思い出す人。

だから、この物語を読んで私は乙一の「未来予報」を思い出しました。
〈…存在がいつのまにか自分の中で重要になっていたのは、もっと切実で緊密で単純な何かがあったからだ。何かというのをうまく説明はできないが、例えば傷ついてつかれきった魂がそっと寄りかかるような存在のことに違いない。〉
(乙一『さみしさの周波数』収録「未来予報」より)

さみしさの周波数 (角川スニーカー文庫)

さみしさの周波数 (角川スニーカー文庫)

いいよね。私、乙一の話のなかでも「未来予報」は特別に好きです。
生きていくなかでそばにいてくれたほうがいい存在、いくつかの条件が合えば、その存在を家族や恋人や親友と定義できるのかな。
それらにはあてはまらなかったとしても、存在は自分の中に残り続ける。そんな人は世の中にけっこういるんじゃないのかな。

読むうちに胸がざわざわしてきて、とてつもなく苦しくなりつつ、一気に読み終えた本でした。

僕でなくては症候群

「あのとき彼から一冊でも本を買っていれば、彼は本屋を続けていたのかもしれない」
「その分岐はたぶん無いです」
こんな会話をしました。その分岐は無い、って中々のパワーワードじゃないですか。

また違う場面でこんな会話もしました。
「けどね、こんな僕を頼りにしてくれる人がいるんですよ」
「私はそういう考えをもうやめました」

僕でなければ、私がしなければ、他に誰もいないから。そんなことはなくて、私の代わりはどこにでもいるし誰かしらが何とかしてくれるし、私は他の誰の分岐点にもならない。
逆に言えば私たちだって誰かがしてきたことの代わりをしているにすぎない。
ただ、私でなければ出来ないことは無くても、私だからできること、というのはあるだろう。

今でなければ。とは、ものすごく思う。
私にとっては今がその時で、今が勝負なのに、といつも焦っている。

〈社会っていう大きな波を乗りこなすために、つねに社交的でいるだけだ。「この人でなければいけない」なんて思っていない〉
(最果タヒ『コンプレックス・プリズム』収録「どうか話しかけないでください」より)

コンプレックス・プリズム

コンプレックス・プリズム

  • 作者:最果 タヒ
  • 発売日: 2020/03/15
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

読んでいたらちょうどこう書いてた。
私でなければいけないこと、に、こだわりたくない。(謎のまとめ)
うまく言えないけど、決してネガティブな意味ではない。責任や可能性を放棄しているわけではないの。私は怒っているのかも。

ねまきで本屋

「何が楽しくて付き合っているのか、わからなくなってきた」
後ろを通った若い男の子が言ってた。なんか……なんかすごいな。

私は朝から、仕事のメールを返した。
「旦那さんも子どももいるが、それとは別に彼氏もいる。最近の家庭のかたちも、新しくなりつつあるようです。」
なぜ月曜の朝からこんなメールを……と我ながら思った。(※本の話をしていた)

なんかみんな髪を切っているし、みんな少し疲れている。これが六月、恐ろしい。

夜、すべてを終わらせたあと本屋へ出かける。普通の本屋さんではないので、パジャマにサンダル姿で向かう。
「密を避けるために」と、前よりすっきりした店内が私を迎える。椅子に座って本を読んでいると、「こんばんは」と知らない女の人がやってきて、なんと!彼女も寝間着に草履である。
「今日はパジャマ会なの?」とは店長さん。

そのあとは各自無言で本を眺める。音楽と虫が鳴いてて涼しくて夜の本屋っていいねえ。

遠藤浩輝短編集』があったので買って帰る。喫茶店に置いていたのを読んで以来、欲しかった。1と2があるけど私は1が好きで、とくに演劇サークルの話「神様なんて信じていない僕らのために」が好き。
遠藤浩輝遠藤浩輝短編集(1)』

せっかくなのでパジャマの足元を撮らせてもらいました。
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「ほな、気をつけて」
別れ際に女の人はそう声をかけてくれた。

あなたが連れてくる本

離れたところにいる相手と、同じタイミングで同じ本のことを思っていた、ということがあった。
心臓がどきどきした!

吉本ばななの『キッチン』で、みかげと男の子が同じ夢をみるエピソードあったよね。

キッチン (角川文庫)

キッチン (角川文庫)


「夢の中でもラーメンって言ってたね」

(『キッチン』より)

火曜日の夜にそんなことがあって、おたがいに同じタイミングで同じ本の同じ言葉を読んでいた。なんだか不思議な夜で、大切にしたいので自分のなかにしまっておくことにした。詳しく日記に書いてしまうと、言葉になると、僅かに変わってしまう気がするので。『キッチン』を読み返すとみかげも同じように言ってた。

別件で金曜日、色々と考える。私は誰かのことを懐柔しているのかなあと思って、かいじゅうかいじゅうと思って(本当です)いると、ふいに名前を呼ばれた。その人のところへいくと、鞄からこの本を取り出して見せてくれた。

モーリス・センダックかいじゅうたちのいるところ

かいじゅうたちのいるところ

かいじゅうたちのいるところ

その人とは前にこの本の話をしていて、それをふまえて持ってきてくれたらしい。鞄からそのまま出てきて面白かった。
絵本はけっきょく貸してもらって家でゆっくり読んだ。いまお礼のお手紙を書いています。


私は今まで、本が私たちを選ぶ、本に呼ばれる、という感覚を信じていたけれど、それとは別に、誰かが本を連れてきてくれることもあるのかもしれないですね。

今日の夢は、ある人から「黒い服で会いに来ればよかったのに」と言われる夢。黒い服のとき、会えなかったのに何で知ってるんだろー。と思っていたら夢だった。