本のある日記

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日記・その時にあてはまる本・ことば・音楽。

幽霊のジレンマ

〈逃げる夢と帰れなくなる夢があり後者のときはいつもひとりだ〉
(岡野大嗣『たやすみなさい』より)

たやすみなさい (現代歌人シリーズ27)

たやすみなさい (現代歌人シリーズ27)

  • 作者:岡野大嗣
  • 発売日: 2019/10/13
  • メディア: 単行本

最近見た夢は、小豆島から帰れない夢。女の子に捕まってのがれられない夢。私は夢の中でいつ、もとの世界に帰れるのか。
この歌集は表紙がとにかくかわいい。実際に見るときらきらしてる。学校での描写がやけにリアルな気がするんだけど、私の持つ学校のイメージと噛み合うところがあるからなのかな。
学校は学校でも、校舎のなかで自分が存在しないスペースのことを詠んでいる歌(他人が授業を受けているであろう教室とか)が多くて、そのさりげないさびしさが好きかな。挿し絵の犬もかわいい。


〈みんな顔を伏せて わたしを心から愛してる生徒は手を挙げて〉
〈夏の飲みものの広告に海や空や空気の少しずつちがう青〉

(いずれも同上より引用)

職場で、なんか死んでるみたいに生きてるなって思う。まだ職場と自分がうまくとけあってなくて、ぬるぬるしてる。私も慣れてないし、みんなも私のことをまだまだ知らない。
未来の予定を話していると「この頃にはもういないかもしれないんだっけ?」と聞かれてはっと我にかえる。また別のときに別の人から年齢を尋ねられて、同い年であると判明して笑いあう。進んでいくのに進んではいけないような不思議な気持ちに時々なる。今の自分は人間じゃなくて、存在の確定しない幽霊のようだ。
〈いきいきと死んでゐるなり水中花〉
(櫂未知子の句集『蒙古斑』より)
そんな感じ。リミットまでに、人間になっておきたい。逆に言えば幽霊のあいだは、手を広げすぎない、深みに入りすぎない。

朝、紫陽花をみかけて、あれから一年経つのかとふと思って、これを書いている途中で紫陽花の思い出を共有する人から電話がかかってきた。