本のある日記

本のある日記

日記・その時にあてはまる本・ことば・音楽。

壊せるところを探している

16日
仕事つかれた。もう忘れよう。
間違ってなくても、信用がないと間違ってるように思われることもある。

明日が怖い。早く明日がきてほしいのにずっと今夜のままがいい。

〈そうやって彼女を所有するのはどんな気分?〉

千早茜『透明な夜の香り』

透明な夜の香り (集英社文芸単行本)

透明な夜の香り (集英社文芸単行本)

これよかったなー。
小川洋子の『薬指の標本』に近いものを感じた。依頼者の望む香りをつくる調香師の朔、朔の友人であり理解者の新城、そして彼らのもとで働くことになった女性・一香。
一香は感情の起伏があまりなくて、朔のことを「先生」と呼んで一定の距離をおいて接するんだけど、だんだんと互いに近づいてしまう。
本の外側にいる私は、もっと近づけばいいのに。あいだにあるものを壊しちゃえばいいのに。
と、もどかしい気持ちで読んでいた。
それは登場人物たちも同じで、わきまえて接していたはずの関係性に、所有欲のような欲望が出てきてしだいにおかしくなっていくのが読んでいてわかる。
でもその危うさが魅力的だし、大切に思っているのに自分の欲望もぶつけたい、みたいなエゴが出てくるジレンマがとても良いし愛おしさが際立つ。

けれど、魅力的に思えるのは物語の中のことだからなのかもしれない。
現実になるとたぶん上手くいかない。私は、上手くいかなかった。どうすれば良かったのか今でもわからない。自分から近づいたのに怖くなってしまった。相手のこともだし、その人といる自分のことも怖かった。

一香が、感じる印象を色で表すところが好き。紺色の声とか。

この話ともうひとつ、ちょっとずつ狂っていく話を読んで、今なら壊れてしまったものとも向き合えるかもしれないと思ったけど、やっぱり怖い。

今でも好きな人たちみんなのこと、どこかで壊したいなって思ってる。石橋を叩いて、私と向こうのどちらにどんなひびが入るか試してみたい。
でもそういうことが今は試せなくなった。
この一年のうちに出来なくなった。

正しさというところから見れば、とても良いことだし、歳もとったし落ち着いてきたんだと思う。
けど心のどこかでまだ、欲望がときどき私を手招いている。でもそれじゃ全然しあわせにはなれないんだよ。



今週のお題「大人になったなと感じるとき」