本のある日記

本のある日記

日記・その時にあてはまる本・ことば・音楽。

青文字系と秘密の対価。

「大切な話は金曜日にするのが良いって言うじゃないですか」今日の私は焦っていた。
「ほう?」
「辞職話とか、別れ話とかは、週末にして土日を挟むのがいいって」
だから行きずりに愚痴をこぼしてくれた人にもこんな相談を返してしまっていた。
簡単に言うと、雇用のことで上司に相談したい件があるけどそれを今日言うべきか悩んでいた。今日は金曜日。大切な話は早いうちに、鉄は熱いうちに打つべきか。
「僕は週明けだったけどなー」
この人はたぶん別れ話のことを言っているぞ!
「私も週明けだった気がします」
「ほう……そんな話をしてくれる?それもやぶさかではないけど」
「その話はおいといて、『自分の人生だから人任せにせず、自分の言葉を伝えるべき』と言われたんです。だからやっぱり言いたい」
「がんばってください」

でもやっぱり生き急いでる気がして、また別の、唯一(本音を言える)の先輩にも聞いてみる。
「一番大切なのは、あなたがどうしたいかかな」
ぐうの音もでない。ぐるぐるする。

結局言いました。
どうなるか不明だけど、覚悟をもとう。

一枚の紙をもらう。そこには一ヶ月前に書いた自己紹介が載っている。
趣味、好きなもの、みんなへ一言。こういうの苦手で、自分のしていることや好きなものを中々教えられない。そして私の隣に載っている人はすべてを明快に書いていた。人間としての差を感じた。
私はその人と同じ習い事を昔からずっと続けているけれど、あれは私にとっては趣味とは違うところにある。じゃあなんなんだろう。
お金とか利益とかとはまた別で、自分が生きていくために必要だから続けているような気がする。私のライフワーク。

「こんにちはっ」
と、明るくあいさつをしてくれる人がいる。あとから塩対応してごめんなさいと言うと、「あなたがこんにちはって言えるように、自分もこんにちはって言いますねこれから」と返される。さよならしか言えないくだりをずっと覚えているこの人は、私の自己紹介文も面白かったですよと言ってくれた。

今日は何だか私の仕事場を訪ねてきてくれる人が多い。昨日お休みされてたからじゃないですか?と言われてそうなのか?と少し意外に思った。

職場で秘密の場所に連れていってもらう。
そこには悲しい秘密があって、すっと背中を伸ばして歩かなければならないような錯覚にとらわれる。

夕方、私の中にたまった秘密を聞いてもらう。どうして秘密を言える人と言えない人がいるんですかね?と聞くと、つき合いの長さもあるからでしょうと答えられる。確かに、安全だと思う相手に告げてしまう。
危険な相手へ秘密を明け渡すのには、お互いそれ相応の対価が必要な気がする。でももう最近そんな危ないこともしなくなった。

〈一人で生きるより永久に傷つきたい〉

(宇多田ヒカル『誰にも言わない』より)

誰にも言わない

誰にも言わない


〈バレエを仕事には出来ないと思い知ったんですが、かと言って趣味で続ける気は全くなかった。だからキッパリと辞めました。でも辞めた瞬間、何の為に生きているのか分からなくなってしまったんです。〉

(雑誌『Soup.2016年7月号』連載「門脇麦とめがね。」より)
なんとなく彼女の秘密に触れてしまった気がした。でも近さも感じた。

『Soup. 2016年7月号』

Soup.2016年7月号

Soup.2016年7月号

  • 発売日: 2016/05/23
  • メディア: 雑誌
雑誌『Soup.』の2016年に出た号を集めている。2015年でもなく2017年でもそれ以後でもなく、2016年のSoupが一番好き。
もともとこの雑誌は『mini』や『SEDA』に近い雰囲気だったけど、2015年の終わりごろから急に「めがね」文学少女」というテーマを前面に押し出して雰囲気ががらりと変わった。変わってからのSoupがすごく好きだった。
売上がかんばしくなかったのか、反応がよくなかったのか、分からないけれど2017年からはまた軌道修正されて、やがて休刊になってしまうのだった。
2016年のころは『Olive』とか、主張しないバージョンの『ar』という感じ。それか若い『クウネル(リニューアル前のほう)』。ページのデザインも色合いもフォントも全部2016年が最高だった。
その後は『mer』がまぁまぁ近くて、でもmerよりSoupが控えめで好きだった。merも紙は休刊になってしまったなあ。今、がんばってほしいのは『ar』『LARME』『装苑』と書きたかったけど、LARMEもこの前休刊発表されていた……。
スタンダードなものだけ世界に残っていく。