本のある日記

本のある日記

日記・その時にあてはまる本・ことば・音楽。

失ったものを取り戻していく日記

25日

仕事復帰の月曜日。

同い年の同僚が「久しぶり!」と声をかけてくれた。君みたいな人がこの世にたくさん必要だね。

家族ではない誰かとの会話を取り戻した。

自分は外に出たほうがいい人間なのだと思い知った。世界はあざやかだった。

 

26日

火曜、夜は鍋。おそるおそる食べる。お腹いっぱいになる、昨日よりもぐっといっぱい。たくさん食べる力を取り戻す。

 

27日

人の読書を追いかける、ということを久しぶりにする。人が読んだ本を読む。なんとなく秘密にしている。

誰であっても、文字を追いながら、あの人もここを読んだんだな。どんな気持ちで? と、考えるのが好き。好きというか、他人と同じ物質を経由していることに不思議を感じる。本を通して人を見たがっている。

自分にはない軸をもつ人にあこがれる。私がとらわれているところより広い思考で生きている人。追いかけたのはそんな人だった。

「その仕事って楽しいですか?」と年下の子に訊かれた。その場では言えなかったけど本当はとても楽しい。確約された未来はないのだが。

帰宅して泥のように寝た。いやがおうにも疲れるからか、仕事に復帰してからすんなり寝られる。臥せっているときは寝ていても苦しかった。睡眠を取り戻した水曜日。

 

28 日

木曜日。

「だめでしたわ」

と、年下の子が恋の結末を話に来る。

せめて最後に話したかったが、それも叶わなかったのだそうだ。

「話したいときにはぐらかす人って、私無理なんよね」

そう、吐露してしまう。大切なときに向き合ってくれない人とは離れたほうがいいよ。と言いたかった。

病み上がり後、初の習い事。

仕事と同じで、やらなければならないときが来れば身体は動く。昨日までは鋏を使っても息が切れていたのに。本当はもう少しモラトリアムを持ちたかった気もするが、練習したことでやっと日常が戻ってきた気もした。

 

ここ数日、羊文学の曲を聴いている。秋めいてきた空気に合う。朝と夕方に聴くのがよい。羊文学を聴きながら出勤すると、なんだかすごいドラマを背負って朝を迎えた人の気分だ。

岡崎裕美子の短歌「したあとの朝日はだるい 自転車に撤去予告の赤紙は揺れ」くらいの壮大なけだるさがある。

朝は終わりの時間で、寂しくて苦しかったことを、彼女たちの歌でぼんやり思い出してしまう。その感覚がすでに遠い記憶であることも実感しながら。

1999

1999

  • felicity
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