本のある日記

本のある日記

日記・その時にあてはまる本・ことば・音楽。

随筆を聴く/ドレスコード

いろいろあって今夜、家出している。家出というか、夜遊びというか、夜中に家を出ている。家にいると気持ちが塞ぐような気がしたので、とりあえず家を出て、できていなかったことやしたかったことをしている。

音楽はサブスクリプションで勝手に選んでくれたものを再生している。「夜ドライブ」と検索すると、HIPHOP中心のプレイリストを流してくれた。HIPHOPの歌詞はなんとなくエッセイを読んでいるのと近い心地にさせられる。万人に分かる言葉ではなくて、誰かの心の何処かにひっかかる記憶を書いたものが多いように思う。

家を出てくる前、気圧のせいか頭痛がひどくてうたた寝していたら、チャイムが鳴って宅配の飲食が届いた。注文してないですよ。どうやら配達先を間違えていたらしい。これ、答えなかったらどうなってたのかな。家に居たことは良かったことなのかな。(そういう詐欺じゃなければいいのだが)

家族が返ってくる前にそっと家を出てきた。なぜか緊張した。買い物に行って好きな店を見て必要なものと好きなものを買った。途中でものを落としたら知らないお兄さんが教えてくれた。人の優しさ。

店を出て、家族はもう帰宅したかなあと思う。帰宅していたらどうしよう、しかし帰宅していなくてもどうしよう。シュレディンガーの家庭。でもまだ帰らないの。

もう一つ、最近したかったことがあって、それは真夜中の喫茶店に行くこと。本当は「真夜中の喫茶店」という店そのものに行きたいのだが、そこまでの覇気はなくてチェーン店のカフェに入る。やっちゃうぜ。何も考えず緑の靴下を履いてきていて、しかし頼んだものは抹茶ティーラテで、持ってきた本の表紙は緑の森深くを映したものだった。今宵はみどり色。

カフェは人が少なくて、以前、接客業をしていたころの夜を思い出した。休日が終わる夜はいつも閑散とする時間帯があって、その寂しさが好きだった。

あーあどうやって帰ろうかな。でも、出てきて良かったと思う。気持ちを外に向けて、内にある言葉はここで文になった。家に居たら悲しく横たわっていただけだったと思う。

このカフェはまもなく閉店する。夜更かしもできず私は追い出されるのだろう。眠る街、高松。ああなんて健全な街。

 

 

日記を下書き保存していたので、以下、そのまま載せる。ところどころ、加筆している。

 

◇ ◇ ◇

 

重要な何か、だけど同じ世界には居ないほうが良い存在ってない?……ない?

話は変わるけれど、先日、いつもと違う雰囲気の服装をまとった。あれ、今日なんでそんな服なの、と色々な人に言われて自信をなくした。

今日は反省していつものような格好をしていると「ドレスコードは戻したんですか?」と尋ねられた。戻したドレスコードをまた戻したら、じゃあどうなるのか教えてほしい。

 

18日

一日練習。とても寒い。夜は後輩とご飯。

 

19日

この日も一日練習。夜、西宝町のTSUTAYAへ河西紀亮さんの絵を観に行く。以前、何度か拝見したことがあり気になっていた。展示じたいはシンプルな配置だったが、絵はどれも素敵だった。

夫と合流して夕飯を摂ったあと、書店へ。書店を眺めるのは楽しいし、何か素敵な情報を見つけたくなる。でも、買いたいと思える本はあまり無かった。最近そういう直感が鈍くなっていて、寂しい気もする。

 

20日

新しいセーターをおろす。もうああいう服は着ないのか、と聞かれた。しばらくやめる。

 

21日

夜、家族に電話する。

 

22日

新聞を見るといい夫婦の日だと書いてあった。そうなのか。

職場の人もいい夫婦の日だから早く帰宅すると言っていた。何かするんですか?と尋ねたら、「いるだけでいいだろう」と言っていた。かっこいい。

職場でマイナートラブルが続いていて、人が避難しに私の部屋へ来たりする。それは、良いことではないが、来てくれることは嬉しい。

 

23日

昼から習い事の行事。気圧にやられているのか、頭痛がひどい。少し大きな行事があって緊張したが、無事に終わってひと安心。昔一緒に練習していた人や、今かかわっている人たちが駆けつけてくれてなんだか嬉しかった。

帰宅して、なんだかなあという気持ちになり、別に家族は何も悪くなくて、私が子どものようにわがままなのだ。でもふと虚ろな気持ちに襲われて、そっと家を出た。そして冒頭へ。

 

 今度、あの人に触れることがあれば、きっとわたしは死んでしまうだろう。

 比喩ではなく、大袈裟でもなく、真綿でゆっくりと首を絞められるように息が詰まってわたしの体は失われ、冷たい墓石の下で粉々の遺骨になるだろう。

 そんなことはまったく望んでいなかった。わたしはようやく落ち着いた生活をこのまま守りたかったし、いつか暗く停滞したこの気持ちから抜け出せると信じていた。

 

島本理生『生まれる森』より引用)

 

私、島本さんの作品でこの物語がいちばん好きなんですよね。

でもしばらく読まないと忘れてしまうもので、すっかり記憶から消えていたのだが、先日、本棚からなんとなしに、久しぶりに引き抜いたら、この一文が心から離れなくなった。その日からずっと忘れられなかった、と言ったほうが正しいのかも。

 

私は今の生活をずっと続けていきたい。そのためには、大切であっても、そばに置かないほうがいいこともある、と、最近よく感じる。それは私の内側、外側、どちらにも存在している。

そばに置かないというのは、捨て去るということとはまた違っていて、いつかになればもっと自然になるタイミングがあると思っていること。

今は、今の自分が選択したままの暮らしでいたい。